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「禅の逸話」…その1. 天国と地獄

 


【ASMRささやき】[禅問答小説]#1 天国と地獄【短編】

 


【ASMRささやき】[禅問答小説]#1 天国と地獄【短編】


 

 

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「 天国と地獄」という例え話を誰もが

聞いた事があるだろう。

 

 

わざわざ説明せずとも"そこが良いとこで" 

"そこが悪いとこ" なんてのは誰もがよく

知っている。

 

 

しかしそれが何処にあるのかという段になると

人それぞれ解釈は違ってきて、

「死んだ後の世界にある」なんて言われても

信じられないと言う人の方が多いかも

しれない。

 

 

因みにあなたは

 

"天国があると思いますか…"

"地獄があると思いますか…"

 

 

あると思うのならば少しでも

悪行をやめる理由になるだろうか…。

 

はたまたそんな事は信じちゃいないと

言って傍若無人に振る舞うのか…。

 

 

この「天国と地獄」についての面白い逸話が

臨済宗にある。

 

 

それは確か戦国時代の話である…。

 

 

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昔ある所に将軍と呼ばれる地位の方がおり、

その将軍は名家の御子息らしく

国を護るとばかりに子供の頃から

英才教育を施され、

武は勿論のこと学問の方も達者で、

正に才色兼備、優れた徳も備えた

それはそれは立派な人物であったという。

 

 

そんな将軍は当然の事ながら

仏教についての学問も学んでおり、

しかしこの目で見た事のない世界を

どうも信じる事が出来ない、

そんな性分であった。

 

 

「極楽浄土なんていう世界が本当に

この世の何処かにあるのだろうか…。

悪い事をすれば地獄に落ちると言うが、

国を守るためとはいえ、

何人もの人を殺めてきた私でも、

やはり地獄に落ちるのだろうか…」

 

 

そんな悩みを心に抱き、

お坊さんに会うたびに

単刀直入にその質問をしてみるが、

納得のいく答えを出してくれるお坊さんには

これまで一度も会ったことがなかった。

 

 

ある時将軍は、この辺りに偉い高僧が来ている

と言う話を聞いた。

 

将軍は極楽についての話を是非聞いてみたい

と思い、すぐさま使いの者を出して

高僧を丁重に城に招き寄せた。

 

 

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将軍は高僧を招き入れると

礼節を重んじて恭しく挨拶し、

失礼のないように注意しておもてなしをした。

 

 

そしていよいよ例の問題について

質問してみようと話し始めた…。

 

 

「私は幼い頃より仏教というものを

幾ばくか学んできて参りました。

そしてそこには天国と地獄について

書かれているものもあり、

殺生は罪であると書かれておりました。

 

私は天国に行きたい。

否、それは皆が思うところでありましょう。

 

しかし私は武人です。

国を守る為、人民の生活を守る為に

戦わなければならないのです。

 

例え百姓であったとしても

害虫の命を取らなければならないでは

ございませんか。

それならば殺生の罪を犯さざるをえない

我々人間がどの様にして極楽浄土へ

参れるというのでしょうか。

 

是非貴僧に教えて頂きたく

お招きした次第でございます…」

 

 

 

それまで将軍の歓待に和やかに応じていた

その僧は、その話になるとじっと耳を

傾けて真剣な表情で聞いていた。

 

 

さて長きに渡って悩んで来たこの問題に対して

高僧と呼ばれるこのお方は一体どんな答えを

するのだろうか。

 

 

将軍はワクワクしながら身を乗り出して

高僧を食い入るように見つめ、

その答えを暫く待っていたが、

僧は急に態度を変えて

ぶっきら棒にそっぽを向いて、

フンッと鼻を鳴らしてしまったではないか。

 

 

どうやら答える気はないらしい…。

 

 

将軍は呆気にとられた。

 

なぜ僧が急に不機嫌になったのかが

分からなかった。

 

将軍はこれまで高僧を敬い丁重にもてなし、

出来る限りの礼節も尽くして、

気を見計らって丁寧に

質問もしたつもりである。

 

それなのに高僧と呼ばれるこの僧は

一体何故急にこんな態度を取るのだろうか…、

質問の仕方が悪かったのだろうか。

 

 

将軍は落ち着いて気を取り直してから

意を正してもう一度僧に質問しようとした。

 

 

すると話も聞かぬ内に僧は、

「フンッ、この人殺しの野武士めが、

そんな事も分からんのか…」

と悪態をついて酒を煽りだしたではないか。

 

 

将軍は僧の一言にカチンと来たが、

今一度冷静さを装って

「人を殺めるのは国を守る為なのだ」

としかし語気を強めてそう説明した。

 

 

すると僧は益々悪態をついて、

「黙れ黙れこのこじき野武士が、

貴様らのように人の命を虫けら同然に

奪うやつなんざ地獄に落ちるに決まっとる。

閻魔大王様にビビッとらんで、

はよ死なんかい…」

 

 

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それを聞いた将軍は、酒も入っていたせいで

更に顔を真っ赤にして怒りに打ち震え

傍らにおいてあった刀を手に取った。

 

それでもなんとか我慢して

血走った眼を僧に向け

 

「いま謝るならば命だけは勘弁してやるぞ…」

 

と我を抑えるのに必死であった。

 

 

しかし僧は、更に悪態をついて

その場に寝転がり、

 

「坊主を殺しちゃ地獄行きは確実じゃわい、

ほれ、やれるもんならやってみんかい、

死ぬ事なんぞとうの昔に覚悟しとるわい…」

 

 

とうとう我慢の限界に達した将軍は、

僧が言い終わらぬうちに

勢い一閃、大きく振りかぶって

見事僧の頭上めがけて刀を振り下ろした。

 

 

刀が僧の脳天に触れるかというその瞬間、

僧はボソリと一言なにかと言った…

 

 

「それが地獄じゃ…」

 

 

刀は僧の頭上ギリギリの所で止まり、

いつしか汗びっしょりになった将軍は

呼吸を荒げたまま…

 

 

「こ、これが地獄…」

 

 

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「そう、それが地獄じゃよ…」

 

 

刀を下ろして我に返り、初めて地獄の存在が

自分の中にあったのだと気づいた将軍は、

しばらく呼吸を整えると

僧の教えてくれた事が紛れもない真実であると

理解した。

 

 

これまで読んだ文献では、決して悟る事の

出来なかった地獄の存在を、

確かに教えてくれた事に心底感謝の念が

湧き起こり、

意を正して僧に改めて深々と頭を下げた。

 

 

すると僧はボソリと一言…

 

 

「そこが天国じゃ…」   

 

     

…🙏

 

 

 

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